2004年12月号
フェムト秒
ファイバレーザーの半導体への応用
Gregg Sucha, Product Manager
Michelle Stock, Product Manager
Alan Arai, Manager of Application Rsch.
 フェムト秒パルスレーザーは、長い間、複雑で壊れやすく高価だったため研究室所内でしか使われてこなかった。しかし、ファイバレーザーなどの周辺技術の発達により製造現場でも利用できるまでになってきた。ここでは、フェムト秒パルスレーザーの特長と応用例について説明している。
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ファイバレーザー技術
 フェムト(10-15)秒パルスレーザーは長い間、製造技術として高い可能性を持っていると考えられてきた。しかし、複雑で壊れやすく高価だったため、研究室所内でしか使われてこなかった。ところが、ファイバレーザー技術によって、この状況が急速に変わろうとしている。導入して一発で動作するターンキーシステムが商業的に利用できるようになったため、ファイバレーザーが工場への導入されるようになった。システム通信産業で厳しい条件下で使用されているように、光ファイバをベースにしたシステムは小型で、安定したプラットフォームになる。
 光ファイバを高出力のフェムト秒で動作するレーザーの製造に適用するには、別にいくつかの技術革新が必要だった。その中の一つにファイバ・チャープパルス増幅器(FCPA:Fiber Chirped-Pulse Amplification)1), 2), 3)がある。FCPAは微細加工に必要なμJレベルのパルスエネルギーを発生させることができる。FCPA技術を使い、まず100pJという低いエネルギーで、しかもフェムト秒と短いパルスのレーザーを分散ストレッチャーでパルス幅を1ns程度に拡張する。これらのパルスは、ファイバ増幅器ステージで増幅され、2重回折格子コンプレッサーで短いパルスに再圧縮される。
 二つ目は、特別に設計されたイッテルビウム(Yb)を含有させたマルチモード・ファイバだ。このマルチモード・ファイバは、従来型のファイバレーザーに比べて高出力にも対応できる。その一方で、単一モードのビーム出力や精密な微細加工を行う際に重要になる照準安定性を持っている。
 このようなレーザーの例として、図1にFCPA μJewel D-400の基準性能を示す。波長幅300fs、パルス周波数200kHz で2μJを出力する。パルス周波数を5MHz にすると、波長幅600fsで100nJの出力となる。FCPA技術は、パルス周波数を柔軟に選択することにより、低出力発振機と高出力増幅システムのギャップを埋めることができる。つまり、数MHzという高周波の発振器と数kHzという低周波数の増幅器の間で自由に設定できるため、効率よくエネルギーを出力することができる。この種のレーザーシステムでは周波数を迅速に変えることができ、単一システムの中で、10秒という短い時間で周波数を1kHzから5MHz程度まで変えることができる。
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 また、FCPA技術では、ほとんど全てのファイバを統合させた構造を採用できるため、原理的に安定した信頼性のある特性を得ることができる。生産性と非常に安定したアライメントのため、固体レーザーでは聞いたことのない、ピグテール形状のファイバを使用する必要がある。市販の固体レーザーと比べて、FCPA μJewel は特殊な電気的処理や冷却を必要としない。OEMシステムに組み込む場合に、このことは非常に有利な点になる。機械的な調整部品も必要としないため、増幅器のステージとのアライメントを気にする必要はない。ユーザーにとって使いやすく寿命の長いシステムであるため、超短波長のレーザー技術を24時間/7日間という過酷な環境でも使用できるだろう。

フェムトマッチングの優位点
 多くの材料プロセスでは、ナノ秒間隔でUV パルスを発光するQスイッチ付きのDPSSレーザーやエキシマレーザーを用いている。最高出力は100kW程度と極めて高く、たいていの物質を容易にアブレーション(蒸発)させてしまう。アブレーションプロセスでは通常、所望のアブレーションだけではなく、バルク熱効果も伴う。図2に示すように、ナノ秒パルスレーザーはターゲット上で発熱し、溶融したり変質したりする。特に、熱の影響が大きい領域(HAZ:Heat Affected Zone)では表面上にデブリを発生させたり付着したりする。さらに、ナノ秒で動作するパルスレーザーのアブレーションで発生する強い音の衝撃波によって、衝撃の影響の大きい領域(SAZ:Shock-affected-zone)と呼ばれる加工領域では亀裂が生じることもある。そのため、加工プロセスやパラメータは注意深く開発し、好ましくない影響を最小限にしなければならない。しかし、完全になくすことはできないかもしれない。パルスエネルギーやパルス幅、波長、露光、導入ガスといったパラメータは最適化を行い、プロセスを最適に管理する必要がある。
 フェムト秒で動作するレーザーのパルスは、ナノ秒で動作するレーザーのパルスよりもおよそ1/10万と短いため、最小限の熱効果でアブレーションをおこなうことができる。デブリがない非常にクリーンなアブレーションは、極端に高いピークの出力と短いパルス幅のパルスレーザーによって得られる。熱拡散などの熱効果が起こる前に、超短パルスレーザーは材料をイオン化してすぐ蒸発させることができる4)。このため、パルスレーザーが材料上にエネルギー照射している短時間ではターゲットのレーザー照射領域のエネルギーが損失することはない。これは、照射領域にだけ熱を集中できるためだ。これによりアブレーションの閾値を低くできる。これだけでなく、ターゲットの周辺領域に熱が伝わる前に、熱せられて蒸発した材料は即座に排出される。図3に示すように、HAZやSAZの低減につながっている。熱により溶けて融合する材料部が少なくなればなるほど、変質部分も少なくなる。このアブレーション方法のことを、「コールドアブレーション」とか「非熱アブレーション」と呼ばれている。爆発性の高い物質を安全に切断したり組み立るなどの用途でこのアブレーション方法が採用されている。
 この新しいレーザーのアブレーション特性でさらに特筆すべき点は、デブリが少なくクリーンな特性のため、あらゆる種類の材料に使えるという点だ。たとえば、金属やセラミックス、半導体、絶縁体、さらには生物上の物質・細胞・組織といった様々な材料に応用できる。多くのレーザーのマイクロマシニングでは、材料がレーザーの波長で吸収するときに、アブレーション現象が起こる。例えば、UV光を用いたエキシマレーザーが、セラミックの加工や透明なポリマーの加工に広く使用されるのは、UV領域で吸収されるためだ。フェムト秒パルスレーザーは出力強度が強いため、透明な材料を精密に再現性よく加工できる。それが、たとえレーザーの波長を透過するような材料でもだ。フェムト秒パルスレーザーの波長は、ほとんどの絶縁体材料に対して透過領域にある赤外線領域(通常800nmまたは1060nm)であるが、高速高出力パルスは「ターゲットにUVを照射すること」と同じことである。これは、材料中で光非線形の効果が起こるためである。パルスあたりエネルギー1μJ、パルス幅1psの超短レーザーは、ピークで1MWを発生する。例えば、このレーザーを5μmの点に集中させたとすると、エネルギー密度は1012ミ1013 W/cm2に達する。この強度下では、多数のフォミトンによるイオン化現象で、最外周にある電子が透過性絶縁体の構成原子から電離が起こる。これが起点となって、イオン化が次々に起こってなだれイオン化を起こし、材料の光学的降伏や蒸発を引き起こす。その結果、アブレーションの閾値や除去速度を制御しやすくなる。
 アブレーションの閾値を適切に決定したり、熱拡散を最小限に抑えたりできるため、回折で決まる加工寸法の加減以下の加工でもフェムト秒パルスレーザーは使用されている。例えば、マスクの修復では、空間分解能を1μm以下にしなければならない。原理を図4に示す。ガウス分布を持つレーザービームがターゲットに照射されると、パルスエネルギーが正確に調整されていれば、ガウス分布で最大強度だけがアブレーションの閾値を越えることができる。そのため、レーザーの焦点半径よりも小さな領域で除去できる。厚さ600nm の銀箔で実験した結果、直径300nm の穴を開けることができた。そのときに使用したレーザーの直径は3μmで、波長は800nm であった6)。これは非常に微細な加工処理が必要なアプリケーションでは有用である。NSOM の先端から出射されるフェムト秒パルスレーザーを使用すれば、さらに高い分解能を得ることができる7)。

マイクロマシン技術の例
 マイクロエレクトロニクスの分野でよくレーザーが用いられる方法の一つに、パターン形成された基板やマスク修復基板から薄膜を除去するアプリケーションがある。石英基板からクロムを除去する工程は、マスク修復で基本的なアプリケーションである。通常は集束イオンビーム(FIB:focused ion beams)または集束電子ビーム(focused electron beam)が用いられている。しかし最近では、フェムト秒パルスレーザーがマスク修復装置で使用されている。FIBマスク修復装置は、これまで空間電荷効果(space-charge effect)によるパターンのひずみ問題があった。しかし、フェムト秒パルスレーザーを採用したことによりFIB固有の分解能、及び処理速度に対する問題を解決することができた。図5にナノ秒レーザーとフェムト秒レーザーを使って、それぞれクロム線を切った時の比較結果を示した。ナノ秒レーザーでは、クロムの溶解と「再付着」を伴っているために切断部終端に溶球を生じ、欠陥品となっている。このプロセスでは、位相でエラーが起こらないようにするため、石英基板にダメージを与えてもいけない。
 また別の使用例として、ポリマー基板上の金属膜にμmオーダーの寸法で、非常に微細なパターン形成させるアプリケーションがある。その一つの方法として、マルチステップのプロセスで行なう化学エッチングがある。基板上の金属膜に直接レーザーでパターンを書いていくことは容易であるが、通常ポリマー基板は金属膜よりも融点が低いため、この方法ではたびたび問題が起こる。例えばCWレーザーを使ったテストで、基板に大きな損傷を与えずに5μmの銅薄膜を除去することは事実上できない。しかし、フェムト秒パルスレーザーならば、薄膜上にある線を8μm以下の幅で切断することができる。一般的に、ファイバレーザーの200kHz以上の高周波数によって、直接パターンを書き込む速度をリニアに上げられる。
 フェムト秒レーザーのアブレーションには、その他にも効果的な使用法がある。図6に示したように、平坦化された表面にフェムト秒レーザーを照射すると、周期的なナノ構造をした表面を形成できる。深さや周期、方向、パターンといった表面構造の特徴は、ビームの偏光方向やエネルギー、露光に依存するため、ある程度制御ことができる。滑らかな表面構造にすると、表面間の摩擦(例えば潤滑油の保持によるもの)を低減できることが分かっているため、シリンダの側壁やハードディスクドライブの磁気ヘッド部分などの機械部品へ応用することが期待されている。将来のナノ構造への応用例として以下のようなものが挙げられる。
●ベアリングやハードディスクの磁気ヘッド部分の摩擦低減
●化学触媒の表面層の拡大
●表面ぬれ性の改善
 最後に、図7に技術的に重要な材質を加工した例を示した。ZnO表面上に周期的な格子状のパターンの書き込みを行った結果である。ディスプレイ産業や太陽電池では、ZnOなどの透明な酸化物が、インジウム-スズ酸化物(ITO:Indium-tin-oxide)の代替材料として検討されている。周期1.5μmの表面の波形を見れば、精密に加工制御されているのが分かる。
 その他にも、サファイアウェーハのMEMSの調整や切断というアプリケーションに利用されている。MEMSセンサーの機械式発振器は、選択した場所で微小量の材料を除去することで正確に調整できる。フェムト秒で動作するレーザーマイクロマシンで期待されていることの一つは、HAZを最小限に抑えて、1パルスあたり除去する物質を減らすことだ。これが、アプリケーションの中には短所となる場合もあるが、微細な加工を必要とする場合には有益である。高周波数のファイバレーザーを用いれば全体的なプロセス速度を上げられるだろう。
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参考文献
1. M. L. Stock and G. Mourou, “Chirped-pulse Amplification in an Erbium-doped Fiber Oscillator/Erbium-doped Fiber Amplifier System”, Opt. Comm,, 106, 249-252, (1993).
2. A. Galvanauskas, G. C. Cho, A. Hariharan, M. E. Fermann, and D. Harter, “Generation of High-Energy Femtosecond Pulses in Multi-mode Core Yb-fiber CPA Systems”, Opt. Lett., 26, 935-937 (2001).
3. A. Galvanauskas, “Mode-Scalable Fiber-Based Chirped Pulse Amplification Systems”, IEEE J. Sel. Top. In QE, 7, 504-517, (2001).
4. Ultrafast Lasers: Technology & Applications, Marcel Dekker Inc., New York, 2003, Ch. 7.
5. Perry M.D., Stuart B.C., Banks P.S., Feit M.D., Yanovsky V. and Rubenchik A.M., 'Ultrashort-pulse laser machining of dielectric materials', J. Appl. Phys., 85, 6803 ? 10 (1999).
6. Pronko P.P., Dutta S.K., Squier J., Rudd J.V., Du D. and Mourou G. 'Machining of sub-micron holes using a femtosecond laser at 800?nm' Opt. Commun., 114, 106 ? 10 (1995).
7. Nolte S., Chichkov B. N., Welling H., Shani Y. Lieberman K., Terkel H., “Nanostructuring with spatially localized femtosecond laser pulses,” Opt. Lett., 24:914-916 (1999).
8. Haight R., Hayden D., Longo P., Neary T. and Wagner A. 'MARS: Femtosecond laser mask advanced repair system in manufacturing', J. Vac. Sci. Technol. B, 17, 3137 ? 43 (1999).

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