2004年12月号
ニコン 執行役員 精機カンパニー 開発本部 本部長牛田 一雄氏
2005年はニコンの液浸技術が花開く年
Semiconductor International日本版編集部(SIJ):2004年はやはり、リソグラフィでは液浸技術が注目された。
牛田一雄:2004年はArF(193nm)液浸技術の確認の年だった。ニコンでは2005年第2四半期にArF液浸対応露光装置の量産一号機を製品化する。レンズの開口数(NA)は1.0を超える。2006年の後半にはNA1.2以上の装置を発表する計画だ。現在は開発・検査用のEngineering Evaluation Tool(EET)で実験を行っている。ArF露光装置「NSR-S307E」を改造し液浸のノズルを搭載した。半導体メーカーに使用してもらい半導体メーカーで液浸技術がプロセスとして成立するかを確認し、ニコンとしても装置として機能できるか確認を行っている。これが2004年の大きなトピックだった。

SIJ:一方でArF技術の量産への導入は進んでいるのか?
牛田:ArFはロジックデバイス製造用に初めに導入された。メモリー向けには、コスト競争が熾烈なためKrFをぎりぎりまで使っていたようだが、今年に入りNAND型フラッシュメモリー用に導入が始まっており、DRAMメーカーにも導入され始めた。ArFは、2005年以降に増やしていく状況だ。特にフラッシュメモリーでは、ハーフピッチ(HP)は露光波長の解像限界を超えArFを使う方法しかなくなってきている。
SIJ:ArFプロセスの完成度は?
牛田:厳密に言うと、KrFほどには至っていない。しかし、KrFでは不可能な領域に入ってきた。特にHPはある限界を越すとコントラストがゼロとなってしまうので短波長化が必要だ。光学系は、短波長化で難易度が増す。F2(157nm)光学系では、蛍石の複屈折が懸念されていたが、ArFでは問題がないことを確認した。光学系の課題は、液浸技術の高屈折率にどれだけ対応できるかに移っている。
SIJ:ArF液浸の光学系は難しい?
牛田:高NA化が進むと光学系が巨大になるため、製造コストが莫大に増加する。高い屈折率の光、いわゆる浅い光を収束させなければならず、レンズが大きくなりやすい。NA1.2〜1.3では、当社は反射屈折構造のレンズを採用する。反射縮小光学系を作るのが一つの挑戦となる。

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SIJ:F2では反射光学系の難しさが指摘されていた。
牛田:ArF液浸の反射光学系では、露光装置メーカー各社各様の取り組みが行われているようだ。当社はF2のようなキュービック光学系は少なくとも使用しない。当社の反射光学系はF2光学系の開発で行き当たった解だった。それがArF液浸に対応できることが分かっている。しかし、F2で反射屈折にした理由と、ArF液浸でそれを採用する理由は異なる。F2の場合は、レーザーの半値幅が非常に太いため、ミラーを使用した。一方、NA1.2〜1.3のArF液浸技術で反射屈折を使う理由は、レンズが大きくならないようにするためだ。
SIJ:扱いの難しそうな蛍石は引き続き使用されるのか?
牛田:蛍石は、色収差、レーザーのパンプ幅が太い場合に使用しなければならない。しかし、各レーザー光源メーカーがデュアルチャンバ技術を開発し製品化している。この技術により非常に波長線幅を短くでき、単一硝材でも光学系を組むことができるようになった。単一硝材で技術的に容易なのが石英となる。このため、蛍石の量はコントロールできるようになり、使用量も減る傾向にある。
SIJ:光源にデュアルチャンバ技術を採用すると光学系の負荷は増加する。
牛田:レンズに対する負担は増加するが、硝材の材料面の改良でレーザー出力の上昇に対しても対応できるめどが付いた。ArFの光学系材料は、ダメージの問題も含めて解決した。一方で、偏光の制御が液浸の時代では必須となる。ニコンは、ドライNA0.92の露光装置「NSR-S308F」の世代から、照明系の偏光を制御可能にする。輪帯照明時の偏光照明制御も可能となる。当社はこの技術を重視している。これはNAが大きいほど有効度を増し、高NAの光学系ではこの技術がないと成立しない。試算では、偏光照明を導入することでNAが半世代ぐらい伸びたことに相当するという。過去はNAを上げることで解像度を向上してきたが、NA0.92のNSR-S308Fでは偏光照明機能を搭載するので、非偏光換算でNA1に近い性能を達成する。
偏光の制御が液浸時代では必須となる
SIJ:偏光の制御は各社の露光装置で標準的な技術となるのか?
牛田:ニコンが採用する照明光学系は偏光を制御するのに適した構成になっていたため、いち早く偏光を適用することができた。
SIJ:液浸では、ウェーハ上にトップコートが必要なのか?
牛田:最近、トップコートは水を通すことが分かってきた。水が通ってしまっても疎水性が強ければ表面張力により水を運びやすくなる。疎水性を出すという意味でトップコートは必要となる。まだ、半導体メーカーに統一した見解はないのではないか。トップコートを使用し疎水性をだしたほうが、高速で動作する露光装置のステージには対応できると見ている。

SIJ:F2(157nm)の到来はない?
牛田
:当社はArF液浸技術が成立するとみている。その場合にF2は液浸でしか登場できない。ArF液浸技術は波長で換算すると134nmとなり、F2より波長が短い。ドライのF2は、ArF液浸が成立すると見られる今、消えていくことになるだろう。では、F2液浸はどうかということとなるが、現在、F2で使える浸液はArFで使用しているような高い屈折率(1.44)を達成しておらず、まだ屈折率は1.3前後だ。これでは波長を短くしたメリットが相殺されてしまう。一方で、F2光学系は蛍石を多く使用するため難易度が高く、装置の汚染に対する配慮も格段に厳しくなる。F2に対してはしばらく静観していようと思っている。
SIJ:では、ArF液浸の延命、もしくはEUVリソグラフィ(EUVL)の開発を加速する必要が出てくる。
牛田:ArF液浸の高NA化を加速する。ArF液浸でNA1.3が実現できれば、F2は消えたに等しい。今の浸液が屈折率1.44だが、さらに高い屈折率(1.6〜1.7)の浸液の登場も可能性がでてきている。NAは1.5に近づき、さらに1世代に近い延命が可能となりそうだ。
SIJ:EUVLの進捗状況は?
牛田:EUVLの開発はもちろん進んでいるが、現状は露光装置だけではなく、感度の高いレジストができるか、十分な出力と寿命を持った光源ができるのかなど、さまざまなインフラ整備の段階だ。まだ、解決しないといけない問題が多くある。i線からg線、KrFが登場し、ArFと短波長化を継続してきたリソグラフィ技術にとって、EUVLは王道ではある。しかし、課題も多い。EUVLのバックアップとしてArF液浸と高屈折率の浸液を組み合わせた技術が控えている。最近ではArF液浸の延命の方が本命だとの主張もあるようだ。
SIJ:EUVLの開発負担は大きい。
牛田:これまでリソグラフィは、波長を変えるのは大変だが、露光装置の構成に大きな変更はなかった。しかし、EUVLは反射マスクとなり、過去の装置とまったく形態が異なる。開発負担、費用負担は大きくなる。一方で液浸は光源、光学系は変わらない。簡単に言えば、最後に液体に浸ければ解像度が上がる。開発負担はEUVLより少ない。液浸に注力するのにはそういう背景がある。その次はEUVLが候補であり、技術開発は進めていく。EUVLは、2006年の10月ぐらいまでにR&D機を開発する。
SIJ:ニコンは液浸技術に早くから注目し、先行した。
牛田:当社は早くに液浸の開発を始め、いろいろな見地から評価できた。液浸技術については、各社が軒並み発表を行っている。しかし、本当に重要なのは、製品が完成して初めて液浸が成功したといえることだ。液浸技術でも、表にでていない困難な課題も多くある。それをどれだけ押さえ込んでいるかが重要で、技術とはそれらの集積だ。2004年はそれら一つ一つの技術を蓄える年だった。そして2005年は、花開く年だ。液浸により製品を作り始めることに尽きる。
SIJ:今、注目している技術は?
牛田:液浸用の高屈折を有した液体に期待している。ArFをさらに一世代延命することができる。経済的な効果は非常に高い。 (聞き手:高橋 潤)


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