マスク製造工程が複雑になると共に、工程間にパターン検査を導入することでマスク製造コストの低減とTAT(Turn Around Time)の短縮を実現する可能性がある。問題は、いつ、どの工程で検査を行うかだ。プロセス技術の成熟度や歩留まり増加に応じて検査工程を追加または削除すべきかどうかの決定はデータに基づいて行うのが望ましい。
原価基準の判断方法は、処理前費用が考慮されず、残りの処理にかかるコストのみが考慮されるという点で「前向き」だ。なぜなら、材料費や検査より前の製造コストは追加決定には影響しない。しかし、前半工程の歩留まりは、全歩留まりの一部であるため決定要因として必要である。
トライトーンのマスク製造工程を仮想モデルとして選択した(図1 )。
図1 トライトーンマスクの製造工程
1回目の検査に関連する欠陥は、過剰/損失遮光層、CD描画エラーなどがある。リペア不可な歩留まり制限欠陥はほとんどこの時点で発生するため、ここで感度の高い欠陥検査を行うのが望ましい。
単純なものでも複雑なものでもトライトーンレチクルでは同じ工程が必要なため、一般的な処理といえる。単純なトライトーンマスクでは、Cr遮光層はフレームと露光領域を囲むスクラブ領域に限定されている。複雑なトライトーンマスクの場合、高透過率の埋め込み遮光層が用いられ、Cr遮光層はバックグラウンドの露光を防ぐために用いられる。これは、Cr遮光層は埋め込みハーフトーン層と石英基板の数百nmの間に必要であり、緻密なイメージングにも欠かせないためである。単純なトライトーンと複雑なトライトーンのプロセスの違いは、2回目の描画工程で描画装置の位置合わせ精度や解像度、CD値の要求値が異なっている。
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図に示すように、1回目の描画処理に続くエッチング後と、2回目の描画処理後に続くエッチング後にパターンの検査をする。1回目の検査で発見できる欠陥には、Cr型、埋め込み型の両方で過剰な遮光層あるいは遮光層の欠落やエッジの位置ずれ(CDエラー)がある。この時点でマスクは、石英上のCrバイナリマスクと似ている。この時点でマスクは複雑ではない。しかし、エッジ合わせは全て1回目の露光とエッチングで決まり、リペアが不可能で歩留まりを低下させてしまう欠陥が発生することもあるため、最初の描画およびエッチング後に欠陥検出するのが最も有効であるといえる。
コストモデルを開発する
歩留まりとコストが検査工程の導入に大きく影響する唯一の要因となっている。歩留まりは、一連の処理工程がトラブルなく完了するという経験的確率の推測である。欠陥によって制限された歩留まりは、各処理工程でほぼ推測可能と仮定している。欠陥検出工程に関連があるため、欠陥により制限されうる歩留まりは考慮に入れるが、CDや位置合わせ精度測定などの歩留まり制限因子はここでは考慮していない。
一般的に、マスク製造の平均蓄積コスト(Cumulative_Cost)は、1つのマスクの製造にかかる材料費、装置の減価償却費とオーバーヘッドコストの合計を全歩留まりで割った値である。製造工程を任意に二つに分け、コストと歩留まりをそれぞれ半分ずつに割り当てた場合、蓄積製造コストは以下の通りになる。
+
Cost2
(1)
Cumulative_Cost
=
Yield2
等式(1)では、歩留まり1(Yield1 )と歩留まり2(Yield2 )はそれぞれの前半処理と後半処理で起こった欠陥により制限されている歩留まりと同様となる。物理量(Cost1 /Yield1 )は、後半の製造工程に対する投入材料費の割合と等しい。Cost1 とCost2 は前後半処理の追加材料費(例:レジストや薬液のコスト)、装置減価償却費、前後半の製造工程で発生したオーバーヘッドコストを意味する。式(1)は次のように簡略化される。
図2 ケース#1 オポチュニティ・コスト
前半処理歩留まりが50%の場合、工程間検査はコストを増やさないが削減もしない。これが「損益分岐点」と呼ぶものである。
Cost1 '+(Yield1 '・Cost2 ')
(2)
Cumulative_Cost
=
Yield1 '・Yield2 ' '
この検証において留意すべきことは、処理を二分するのに最適な場所とは、図中の1st 検査の例のように、検査工程を組み込める状況であるということだ。この工程間検査では、マスクは未完成であり、更なる処理工程が必要であるという事実を暗示している。
工程間検査を導入する上での歩留まりの損益分岐点を決定したい。まず、2回目のCrエッチング後に実施した1回の検査から蓄積コストを推測する。この手順で値を算出するため式(2)の全ての値を仮設定した。
Cost1 '+(Yield1 '・Cost2 ')
(3)
Cumulative_Cost'
=
Yield1 '・Yield2 ' '
検査を一度しか行わないとすると、Yield1 ’ = 1.0 で、Yield2 ’ =
Yield1 ×Yield2 である。欠陥レベルが明らかでないのでYield1 ’の欠陥制限歩留まりは100%とする。しかし実際の後半製造工程の歩留まりは前半製造工程の歩留まりに影響される。すなわち、元の欠陥制限歩留まりとの積となる。損益分岐点を見つけ出すためそれぞれの蓄積コストを等しく設定しCost1 -
Cost1 ’を求める。Cost2 とCost2 ’は等しいと仮定すれば式(4)のようになる。
Cost1 -Cost1 '
=
Cost2 (1-Yield1 )
(4)
もしCost1 - Cost1 ’が実際の工程間検査を行ったときのコストを超えた場合、原価節約がおおむね達成されたということである。
描画装置がマスクコストに与える影響
我々はまず90nmノードの単純なトライトーンマスクを調べた。最初の描画には50kVのVSB(ベクター型ビーム)方式の電子ビーム(EB)描画装置を用いた。また、2回目の描画はi線のラスター型レーザー描画装置で行った。2回目の描画時間は2時間であった。1回目と2回目の検査は検査装置「Tera Scan」で行い、セットアップおよび検査、レビュー時間の合計は2時間であった(マスクの欠陥リペアコストは考慮されていない)。データはCost2 に正規化され、前半の製造工程の欠陥により制限される歩留まり(Yield1 )の関数としてプロットした(図2 )。
このケーススタディでは1回目の検査の損益分岐点は、前半製造工程のみに起因する欠陥に制限される歩留まりが50%となった。図2 を見ると前半製造工程での歩留まりが100%の場合、レチクルが不良品となるような欠陥が発生しないため、後半製造工程のコストは全く節約されず、1回目の検査コストがマスク製造コストに追加されてしまう。前半の製造工程の歩留まりが0のとき、後半処理のコストは100%節約され、実際に後半処理コストの50%が削減できる(ただし、前半処理の歩留まりが0であるとそれ自体にコストの問題は生じる)。
図3 ケース#2 オポチュニティ・コスト
後半処理でレーザー描画装置をEB装置に変更すると損益分岐点に大きな変化が見られた。
前半処理の歩留まりが50%である場合、1回目の検査はコストを上げることもなければ削減することもない。これをここでは「損益分岐点」と呼んでいる。後半製造工程の推測コストが損益分岐点に非常に大きく影響することは注目すべき点である。
2つ目のケーススタディでは、複雑なトライトーンマスクを使用した。前述のケーススタディとの違いは、2回目の描画をVSB方式のEB描画装置で合計4時間行った点のみである。2回目の描画装置を変更するのは、より正確な重ね合わせ精度で微細なパターン形成を行うためだった。図3では、前半の製造工程での欠陥に制限されている歩留まりを関数としてグラフ上にプロットしている。この2回目の描画装置を変更したことで1回目の検査における損益分岐点が前半処理歩留まり50%から72%へと増加した。
2回目の描画時間は、ウェーハ上に描かれるデータ量に左右され変動する場合があるため、EB描画装置の描画時間は損益分岐点に明らかに大きな影響を及ぼす。前半の製造工程の歩留まり損益分岐点の決定には、描画時間を変化させながら一連の計算を行った(図4)。2回目の描画時間は前半の製造工程の歩留まり損益分岐点を大きく左右するということが観察できる。これにより描画装置の減価償却が後半製造工程のコストの主な構成要素であることが予測できる。
ケースバイケースで考慮する必要がある
この原価モデルは、歩留まりの観点から工程間の検査工程導入による効果を決定する有効な枠組みとなる。しかし、工程間検査の追加または削除を決定する際には他にも多くの要因を考慮する必要がある。
図4 描画時間の影響
前半処理歩留まりの損益分岐点の変化を見るため、2度目の描画時間を変動させた。
その1つとして、歩留まりの安定性や欠陥原因の解明など製造工程の成熟度が挙げられる。少なくとも、比較的に安定した歩留まりや欠陥因子のパレート分布が前後半製造工程のいずれかに起因するということはよく理解されていると思う。製造工程間に検査を加えることで、歩留まり向上の学習サイクルを加速することが可能である。最初のケーススタディでは前半製造工程歩留まりが50%で工程検査コストの損益分岐点に達した。しかし、もし途中の検査で削除しても、欠陥が検知されるまでに追加のサイクルタイムがかかってしまえば、学習サイクルの延長や歩留まりの減少に影響し、結果的にコストが増加してしまうことになる。
前半製造工程が高歩留まりを維持しているとすれば、後半製造工程もしくは装置設定の変化が要因となってコスト関連事項を再評価する必要がある。2番目のケーススタディが示すように、2回目の描画装置の変更により損益分岐点に大きな違いをもたらした。レーザー描画装置の代わりに高性能EB描画装置を使用すると、さらに後半製造工程にコストがかかる。より複雑なマスクベースの超解像技術(RET:Resolution Enhancement Technology)を採用すると、マスクコストが増加する方向に進んでしまう。
2回目の描画装置の能力や実用性という要因も考慮しなければならない。2回目の露光装置の能力が低い場合、検査を行い欠陥マスクを排除することは、描画装置の生産性を最適化するのに役立つ。
コストモデルはケースバイケースで検証されるべきである。前半製造工程のマスク歩留まりは、そのマスクの技術ノードやそのマスクが使用されるプロセスレベルなどのパラメータの数に影響を受ける。マスクベースのRETはこれら2つのパラメータに関連しており、RETに適切な検査測定を適用しなければならない。
マスクリペアやリペアの難度も検査決定の要因として考慮すべきである。石英エッチングを伴うマスク製造プロセスでは、石英エッチング処理後に検知された石英の位相差欠陥よりもCr欠陥を修復する方が易しい。
2回目の工程間検査は後半製造工程で発生した欠陥を検知するように最適化ができる。単純なトライトーンの場合、これらの欠陥はハーフトーン層上の過剰なCrやCrの欠損だ。これらの欠陥の検出条件は、ハーフトーン石英上のCD値や合わせ精度に関してそれほど厳しいものではない。 工程間検査決定において、テストマスクを用いた検査装置の評価も考慮する必要がある。工程内検査で使用するにはテストマスクのデザインにも中間処理ステップの評価機能も含まなければならない。