つい数年前まで余興のかくし芸程度のものでしかなかった液浸リソグラフィが、量産に向かってしっかりと進んでいる。フルフィールド液浸露光装置が市場に導入され始め、半導体メーカーはその成果を報告し始めた。
2004年12月に台湾TSMC社と米IBM社の両社は別々に、ArF液浸露光装置を用いて完全に動作可能なチップを完成したと発表した。IBMは同社の「Power」アーキテクチャを搭載した90nmプロセスのMPUの重要なレイヤーのパターン形成に液浸技術を導入し、TSMCは90nmのSRAMの重要なレイヤーを液浸技術でパターン形成をした。
2004年夏にIBMは、数社と共同で作業を進めているAlbany NANOTechにArF液浸露光装置を設置している。設置されたのは蘭ASML社の開口数(NA)0.75の光学系を搭載した液浸露光装置「TwinScan AT:1150i」だ。この実験では、IBMのEast Fishkill工場からAlbanyに300mmウェーハが25枚が送られた。液浸露光装置で90nmノードのCu配線工程の1層をパターニングし、ロットをIBMに戻してArFドライリソグラフィでプロセスを完了した。
IBMはこの実験についてあまり多くを公表していないが、結果は良好だったようだ。重ね合わせ精度、CD寸法、および焦点深度に関する制御は満足できるものであったという。IBMは液浸露光装置を用いた重要なレイヤーのパターニングを標準の処理と比較して行った。同社フェローでシステムおよびテクノロジーグループのバイスプレジデント兼チーフテクノロジスト Bernard Meyerson氏は、「ドライとウェットの歩留まりは同等であった」という。「初めて行った実験はうまくいった。結果はすばらしかった」とMeyerson氏は述べている。これまで使われてきたテストパターンと比較すると、実際に製造するチップにフルフィールド液浸露光装置を使用できことは大きかった。「テストパターンを使った場合と、実物のMPUを装置で処理した場合では、大きな違いがある。実に印象的だった」。
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TSMCもASMLのTwinScan AT:1150iを採用した。TSMCでは、チップのポリシリコンレイヤーの露光と現像をASMLの施設で行った。TSMCのマイクロパターニングディビジョンのシニアディレクタであるBurn Lin氏によると、歩留まり、デバイス特性および欠陥レベルはドライとウェットでは同等で、歩留まりに関連する焦点深度は液浸露光装置がドライに比べほぼ2倍になったという。TSMCは自社の工場内にASMLの次世代液浸式装置「XT:1250i」(NA0.85)を有しており、それを65nmの液浸プロセス開発に使用しているとLin氏は言う。「実際に工場に液浸露光装置を設置すると、多くの課題を明らかにできる」。
IBMとTSMCの両社とも、発表は行っているものの成果については口を堅く閉ざしている。しかし、結果には満足しているようだ。液浸リソグラフィ技術はきわめて競争の激しい領域となりつつある。この2〜3年で液浸技術が実験レベルのものから次期量産技術になほど多くの共同開発が行われたにもかかわらず、半導体メーカー各社は今のところ何が得られているのか隠しておきたいようだ。「絶対何かが得られているはずだ」と米SEMATECH社の液浸ストラテジーのプログラムマネジャAndrew Grenville氏は考えている。「関係者がどれほど真剣かを物語っている」。
Grenville氏は,液浸の最大の課題、すなわち欠陥に関して成果が得られていると明かす。研究者たちは、真剣に液浸リソグラフィ取り組み始めてから驚くべき早さで多くの課題を解決してきた。問題が解決されると新たに別の課題が加わるというように、重要課題項目は変わり続けた。2004年8月に開催されたシンポジウムで、液浸ならびにF2リソグラフィに関する最新の調査では、項目数は10からわずか6個に減少した。(新たな課題はイタリックで示す):
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1. |
欠陥の形成、制御と特徴 |
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フィールドサイズ(レンズの複雑性)、マスク縮小倍率、超解像技術およびシミュレーションツールへの影響を考慮したハイパー開口数(NA)の問題および偏光効果による制約 |
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3. |
レーザー耐性や汚染耐性を考慮した露光装置光学系の保護膜の開発 |
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4. |
適正な特性を備えた高屈折率液体の選定 |
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5. |
レジストに対する液体の影響、結果として発生するレジストの膨張などプロセス特性の変動、トップコートの必要性/材料の選定 |
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6. |
吸収の制御、表面張力、濡れ性および放電を考慮した液浸用液体の開発 |
これらの課題は共同作業やデータを共有するいことによって解決してきた。「欠陥については、装置を生産に適用するまでは証明できない。今は何が起きているかを知り始めたばかりだ」(Grenville氏)。Grenville氏はレジストとの相互作用については、何がレジストから出てくるのか、それがレジストパターニングの品質にどう影響するのか、そしてそれが光学系にどう影響するかを、さらに研究する必要があると語る。しかし最近の知見によれば、実際の液浸リソグラフィでの汚染はドライと比べ少なくなるのかもしれない。汚染物質は水を通り抜けにくいと考えられている。もし通り抜けたとしても水から抜け出してレンズには付着しない。「製造ラインで実際のデータを取得することが先決」とGrenville氏は言うが、今のところこの問題に関しては楽観的に見える。
多くの実験は、欠陥形成についても良好な成果をあげている。Grenville氏は、欠陥が発生する要因はスキャンする時に発生する気泡など広範囲にわたっているが、一般的な形状では気泡の発生は認められなかった。
このことが、液浸リソグラフィ開発に携わる技術者にとって大きな自信につながったようだ。フルフィールドの製造が始まり、問題が発生しても、どこを見るべきか把握することもできた。今業界は量産を心待ちにしている。特にTSMCとIBMの発表では、実際の製造ラインにおける液浸技術の有効性を示した。
ベルギーIMEC社は、2004年7月に液浸リソグラフィに関する産業提携プログラムを開始し、ASMLの XT:1250iを2004年12月に設置した。このIMECの2年間のプログラムでは、欠陥ならびにレジスト関連の問題を含むプロセスに関係した問題の調査が予定されており、2007年までに液浸リソグラフィが量産に適用できるように準備することを目標にしている。IMECの液浸プログラムには30社以上が加わっており、このプログラムには独Infineon Technoloies社、米Intel社、松下電器産業、蘭Philips社、韓国Samsung Electronics社、伊仏合弁のSTMicroelectronics、米Texas Instruments社およびソニーが参加している。
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図1 NAの要求値を示す。ドライの露光装置の限界は2006年に到達するとして示されている。液浸リソグラフィを2010年以降も続けるには、純水よりも高い屈折率の液体の使用が必要になるだろう。(出典:蘭ASML社) |
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ハイパーNAの液浸技術
開口数(NA)が0.75〜0.93の第1世代の液浸露光装置は、液体に純水を採用し焦点深度(DOF)を大幅に改善した。一方で次の世代では、解像度の性能を向上するために開口数(NA)1以上のハイパーNAレンズと呼ばれるものを使い始めることになる。ドライ装置の光学系でNAの限界は1.0であるが、最下層のレンズとウェーハの間に液体を置くことにだけで、さらに高いNAを用いることができる。
「過去、NAとk1ファクタは同様に進化してきた。これら2つの要因が結果として解像度の向上につながった」とASMLコーポレートマーケティング部門のディレクタBoudewijn Sluijk氏は語る。「今後解像度はNAに依存し、これまでよりもずっと急速に向上しなくてはならなくなった」(図1)。
SEMATECHはNA1.3のマイクロステッパを2005年夏までにAustinのImmersion Technology Centerに導入するという。それはまだ「世界でも例のない」ものになるとGrenville氏はいう。「レジストの実験や偏光効果の試験、照明系の実験ができるようになる」。
2004年夏、SEMATECHと英Exitech社は超高NAを搭載したArF液浸露光装置の開発で合意した。このマイクロステッパ「MS-193i」は、NA1.3の反射光学系を採用し、露光領域は0.4mmとなっている。水に接する対物レンズは米Corning Tropel 社が開発したものを搭載する。光源には出力4kHzで偏光された独Lambda Physik 社の193nm自然帯域ArFレーザー光源を使う。この装置でバイナリマスク使用に70nm、位相シフトマスク使用に45nmの最小パターンが形成できる見込まれている。
「その性能は目覚しいものだ」とGrenville氏は語る。「われわれの液浸開発プログラムでは最初に重要項目に注力している。そして現在、今後の拡張性の調査を行っていく。それが本当の目標だ」。
液浸リソグラフィはよりNAの高いレンズを可能にするが、その製作が容易にできるわけではない。間違いなくハイパーNA光学系は最も複雑なレンズとなるとGrenville氏は言う。「(レンズメーカーの)全社がNA1.1までは到達できると公言しているが、おそらくNA1.3までは可能になると考えている」。真の問題はコストであり、それはNAとは比例しない。「原理的には製作可能だ」 。
ハイパーNAレンズの問題点は、サイズだけではなく、このレンズシステムに必要な反射光学系が装置メーカーに新しい課題を突きつけるという点にあるとSluijk氏は語る。現在のレンズは対称であり、直列に重ねられた多数のレンズから構成されている。「ハイパーNAレンズの設計に当たっては、われわれは画像を形成するエレメントの一部にミラーを用いる。一度ミラーを導入すると、光がブロックされてしまうため、一列に並べて使うことができなくなる。実際には、ミラーはレンズより使いやすい。しかし機械的な観点からすると、突き出したサイドポートがあるものより一直線に並べたほうがずっと簡単で、特にミリラムダとナノメートルの精度を取り扱う場合には当然だ」。
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図2 ハイパーNA光学系の2つの例。対称構造からより複雑なシステムへと変化している。(出典:ニコン) |
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ニコンのハイパーNA光学系のレンズ構成の二つの例を図2に示す。
ASMLはハイパーNA光学系を搭載した液浸露光装置を2006年までに製品化することを目指している。それには同社は年内に装置設計をある程度のレベルで完成していなければならない。2004年8月のプレゼンテーションによれば、ニコンはNA1.0以上の量産装置「S609」を2005年下期に出荷し、NA1.2以上の装置を2006年下期までに準備するという。キヤノンの開発スケジュールはNA1.2以上の量産装置を2007年までに準備することとなっている。
F2液浸はばくち
現状の液浸露光装置では、レンズとウェーハの間の液体に屈折率が1.44の純水が用いられている。技術ノードに沿うと液浸技術の次のステップは、より高い屈折率を持った液体ということになりそうだ。使用される液体の屈折率は、レンズのNAの限界と関係がある。ドライのリソグラフィでは、空気の屈折率は最大1.0でレンズのNAも最大1.0が理論的な限界となるが、純水の場合にはNA1.44が限界となる。「もし屈折率が1.6ないし1.7の液体を見つけることができれば、より高いNA1.6〜1.7に到達できる」とSluijk氏は述べている。
高屈折率の液体は、複数のグループによって調査されているが、その中には米Rochester Institute of Technologyのナノリソグラフィ研究センターで行われているものを含め有望なものがいくつか登場している。
JSRは、ArF液浸露光装置と同社の「SOLOnX」技術で開発した高屈折率液体を使用し、32nmのライン/スペースのパターンを形成することに成功した。JSRによると、この液体は透明度が高く、屈折率が1.64の低粘度の液体だという。
低吸収率を維持しながら高い屈折率をもつなど、すべての要件を満たす液体を開発することが重要である。「それを業界に受け入れさせることだ」とGrenville氏は言う。「現在はまだ発見の過程にあり、どんな模様になるのかを見極めようとしているところ」、今年はきわめて面白い年になるだろうと述べている。2005年3月に開催されたSPIE Microlithographyでは多くの結果が報告された。次回のImmersion Symposiumは2005年9月に予定されている。
Sluijk氏によると、高屈折率の液体は代替案であるF2(157nm)液浸リソグラフィよりずっと易しそうだとしている。「(F2液浸の)チャンスはとても小さい。もしEUVがうまくいかなかったら、そのときにはF2液浸にもチャンスがあるかもしれないが」と彼は言う。「チャンスがあまりにも小さいので良く見えない。あまり小さすぎて業界が投資することも想像できない」。
まだ完全に捨てられたわけではないが、F2液浸式リソグラフィは確かに難しそうである。「何よりもまず高い透過率と屈折率を持った液体が必要になるが、まだ見つかっていない」とGrenville氏は語る。F2リソグラフィに適合する高屈折率の液体で、この波長に要求される透明度の液体は本質的に難しい。「現状、F2液浸は大ばくちであり、どう収まるかが分からない状態だ」。
にもかかわらず、米MITのLincoln Laboratoryでは、DARPAが資金提供したF2液浸式マイクロステッパを使った研究が継続中だ。それは「ArF液浸の論議とはずいぶんかけ離れたレベル」だと言われているが。
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