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2005年11月号
半導体メーカーの凋落と
エンジニア退職との関係
日本版 編集ディレクター
津田建二
* * * *
 Semiconductor International日本版は、この号で創刊1周年を迎える。本誌の存在意義は、1990年代から凋落が続いてきた日本半導体産業を復活させるためにある。大阪大学教授の赤坂洋一氏は半導体製造装置分野では1990年と2004年を比べても、トップ10に入る日本のメーカー数はさほど減ってはいないが、半導体メーカーの減少が著しいことを指摘している。
 なぜ弱くなってきたのかを分析し、強くするための施策をみんなで考えることを提案したい。
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  これまで、半導体装置メーカーへの支払いが遅れているメーカーは世界中で日本企業だけであることを指摘してきたが、これは半導体メーカーそのものの財務体質の弱さにつながっている。問題はこれだけではない。優秀なエンジニアが去っていったことも関係するようだ。
 ほぼ1990年代全般に渡り半導体メーカーは、必要な時に必要な投資をしてこなかった。このため韓国や台湾に大きく水を開けられてしまった。なぜ投資しなかったのか。総合電機メーカーでもあった大手半導体メーカーは社内の他部門からの資金を使うことが許されなくなったからだ、とかつて大手半導体メーカーにいた第一線級の技術者たちは指摘する。
 大手総合電機メーカーの経営陣の顔ぶれを見ていて気がついたことがあった。それは、総合電機メーカーはいずれも電力部門を、すなわち公共事業向けの部門を持っており、経営会議メンバーの多くが強電出身者であったことだ。大手総合通信機器メーカーも同様に、NTT向けの公共事業部門出身者が経営会議メンバーの多くを占めていた。すなわち、大手電機メーカーの経営会議メンバーに半導体ビジネスを理解できる人間が1人か2人しかいなかったのである。半導体ビジネスのわかる人がこのように少数派では、必要な時に必要な投資はできない。というのは、投資が必要な時期はたいてい景気後退の底にいる時期だからだ。
 半導体ビジネスは、景気の底の時に莫大な投資をしなければ次の景気が来るときに勝ち組になれない。このことが大手電機メーカーの経営陣は理解できなかった。
 1990年代の終わり頃から、再編成の動きが出てきた。エルピーダメモリとルネサス テクノロジ、NECエレクトロニクスの誕生だ。いずれも経営陣は半導体をよく知っている人たち。投資のタイミングを理解できている。
 しかし、エンジニアという人の扱いが問題として残った。1980年代後半から半導体メーカーが我が世の春を謳歌していたころに、米国の学会で大活躍した人たちの多くがいま半導体メーカーを去っている。いわゆる日本の半導体の頭脳がメーカーからいなくなったのである。NEC、東芝、日立製作所、三菱電機、富士通など、IEDM(International Electron Device Meeting)やISSCC(International Solid-State Circuits Conference)などで最先端技術を発表し、その技術について米国のエンジニアと堂々と張り合った人たちがもういない。
 その多くは、大学の教師になってしまった。業界団体に出向させられた人もいる。しかし残念ながら昔の輝きはもうないようだ。
 なぜ半導体メーカーを去ったのか。半導体技術を引っ張っていたそのようなリーダーたちは成熟した会社に合わなくなったのだという声はある。総合電機メーカーであるゆえに、経営陣が半導体事業の独走を許さなくなってきたのに我慢ができなかったのかもしれない。しかも半導体ビジネスを理解していないため経営陣の決断は遅い。資金集めが間に合わない。
 企業によっては追い出されるように関連会社や業界団体に出向させられたエンジニアも多い。45歳になったから、50歳になったから、という年齢だけの理由で第一線から離れてしまうことは誠に惜しい。
 さらに、残った若手が官僚的な経営陣や2〜3階級上のマネージャを見ていて官僚的な方法を覚えてしまえば、企業全体が官僚的になる。これでは活力は生まれない。
 半導体メーカーではないが、退職年齢を引き上げて、若手の教育・研修を担当するため定年間近の人に積極的に残ってもらおうとする企業が現れている。半導体メーカーとしては、微細化が進むにつれて物理限界に近づくため、物理法則や原理といった基本的な半導体や電子回路の知識がエンジニアに求められている。実は、団塊の世代のエンジニアがこういった基礎知識をしっかりと理解している。これが理解できていないと半導体チップを作れなかった時代を経験しているからだ。
 例えば最近の近接効果補正(OPC)をはじめとするDFM(Design for Manufacturing)がこれに当たる。少し前まで、LSIはVHDLやVerilogといった特殊な設計言語で書くだけで設計できた。しかし、プログラムしたパターンを露光しても設計パターン通りに加工されなくなってきた。
 いまや光の波長よりも短い寸法を加工するわけだから、当然波の性質を理解していなければチップは作れない。1/2波長、1/4波長の影響を考慮したパターンを描かなくてはならないのである。試行錯誤でやっているようだが、ここには豊富な経験が必要になる。
 DFMだけではない。LSIが高速になるにつれ、アナログ回路やマイクロ波回路の知識も必要となってくる。もともとデジタルのパルス波形はアナログ回路で作っているからだ。しかし、アナログ回路のわかるエンジニアも半導体メーカーを去った。
 このようにノウハウや熟練した技術を持つエンジニアが半導体メーカーからいなくなったことは、昨今の凋落と無縁ではないはずだ。半導体メーカーが人を大事にしなかったツケが回ってきたのかもしれない。
 創刊1周年を機に、日本の半導体メーカーを強くするためのブレーンストーミングをぜひ読者の方々とやってみたい。ご意見、おしかりの声をお寄せいただければ幸いである。
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