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2006年4月号
低コスト技術を作り込めなかったニッポン
日本版 編集顧問
津田建二
* * * *
 米Texas Instruments(TI)社の最先端300mm工場DMOS6と現在建設中のRFAB工場を見せていただく機会に恵まれた。TIをはじめとする米国の半導体メーカーの共通の特長は、いかに低コストの工場を作り、半導体チップを生産するかである。米Intel社は、コストダウンを最初から考えて製品を設計しているし、米国の半導体コンソシアムであるInternational SEMATECHにおいても大きなテーマは、コストのかからない工場やプロセス技術の確立である。
 TIの工場見学の前に日本の半導体産業を復活させるためのブレーンストーミングを東京赤坂のホテルで開いた(詳細は5月号に掲載予定)。そのなかで、同志社大学の湯之上隆氏が述べたことの一つは、日本の半導体メーカーはコストを考えずにプロセスを開発しているということだった。コストを考えずにまず製品のプロセスを構築し、量産に流してからコストダウンのことを考えるという。これに対して、米国や韓国のなどのメーカーは最初から低コスト化を作り込むのだとしている。
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昔は品質を作り込んだ

 1980年代後半、日本製品の品質が高い理由の一つに品質を作り込んでいるからだといわれた。当時、米国の半導体メーカーは、品質はチップが出来上がってから選別すればいい、と考えるところが多かった。これに対して、日本のメーカーは不良品の出ないように十分なマージンをとり、製造工程の中に品質を作り込んでいた。
 全く同じようなことがコストについても今言われている。海外メーカーが低コスト化を作り込むのに対して、日本はあとから低コスト化にする。「これでは焼け石に水」と湯之上氏はいう。このロジックは、当時まさに日本が米国に対して優越感を持って品質を作り込むと表現したことが、現在米国メーカーは低コストを作り込むという考え方と同じである。
 湯之上氏が入手したある調査レポートによると、NAND型フラッシュメモリーの平均単価が東芝の5.97米ドルに対してSamsungは4.54米ドルと30%も安い。これはSamsungが安く作るための技術革新に努力を費やしてきたからだ。今更のことではないが、半導体チップの価格に占める人件費の割合は極めて少なく、人件費の違いは製品価格に全く関係ない。だから、Samsungが安く作れたのは、人件費ではない。エンジニアの給料でいえばむしろ、日本よりも高い。
 今回、TIの工場見学には日本のメディアが私以外に一人もいなかったことは残念であるが、逆にいえばSemiconductor International日本版の独占特ダネともいえる。TIが最も強調していたことは一にもコスト、二にもコストである。クリーンルーム全体は、もちろんミニエンバイロメントによるクラス1のクリーン度を実現している。クリーンルーム全体の清浄度を上げる必要がないため、高価なHEPAフィルタの数を節約できる。地震の少ないテキサスでさえ、免震構造にすることでリソグラフィ装置の揺れを減らし歩留まり低下を防ぐ。環境問題でもあるが、リサイクル率を上げることも材料費のコスト低減につながる。例えば純水は40%をリサイクルしている。現在最先端のDMOS6工場よりもさらに先端を行く、建設中のRFABでは1平方フィート当たりのコストはDMOS6工場よりも2000ドルも安いという。詳しくはp.11の「コスト最優先で作るTIの最新300mm工場」を参照されたい。
 残念ながら、何nmのプロセスであるか聞き漏らしたが、逆に言えばTIは何nmプロセスであろうと関係なく低コスト技術に集中していることになる。

今だに微細化のみ追及

 日本メーカーが世界の上位10社のうち5社も占めていた1985年から90年代ころまでの黄金時代と比べて3社しかいない現在、海外メーカーと比べて最も大きな違いは低コスト化技術だといえよう。それは、日本のコンソシアム計画のテーマを見てもわかる。45nm、32nmなどロードマップからはっきりと見える時代の微細化技術だけを追いかけている。これに対して、SEMATECHの大きなテーマは低コスト化技術である。つまり低コスト化技術を最初から製品にいかに作り込むか、にかかっている。
 これまでの日本の半導体メーカーは、試作・開発品は性能優先、コスト度外視でやってきて、量産になってからコストダウン運動を始めてきた。これでは手遅れ。今は開発期間の短さを競い、その期間の中で十分に利益が出るような競争の時代になっている。だからこそ、はじめから低コスト化を製品に組み込まなければ利益は出ない。
 半導体メーカーではないが、松下電器産業の「世界同時立ち上げ戦略」はまさにグローバル競争に対応できる仕組みの一つだといえる。それまではまず日本で量産化を始め、半年以上かかって海外工場に移転していた。その間に韓国や台湾のメーカーが低コストの製品を同時期に出してくるため、海外競争では勝つことが難しくなっていた。この「世界同時立ち上げ戦略」は、他国が追いつけない内に利益を上げるものだ。Time-to-Marketの短い間に利益を生むことができる。このために数100億円と見られる大きなIT投資を行い、PLM(Pro-duct Lifecycle Management)ソフトウエアで世界中の生産現場を一元管理し、世界中の工場・開発現場の情報共有を実現するという、とてつもない仕組みを完成させた。
 松下方式が半導体メーカーにとってふさわしいかどうかは別にして、Time-to-Marketの短い間に利益を生むための仕組み作りが最も重要であることは間違いない。低コスト技術の作り込みはその解の一つだといえよう。
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