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2006年11月号
MEMSの開発は競争するより
協力する方がメリットがある
東北大学大学院研究科ナノメカニクス専攻
教授  江刺 正喜 氏
 バイオの分野から半導体の分野まで、マイクロマシン研究の先導的な研究を行ってきた江刺正喜氏に、MEMS(Micro Electromechanical System)産業の今とこれからを聞いた。
* * * *
えさし まさよし氏
1971年、東北大学工学部電子工学科卒業。1976年に東北大学大学院博士課程を終了し、工学部助手に。1981年に同大学助教授、1990年に教授となる。その後、東北大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー長、半導体研究振興会研究所副所長、MEMSパークコンソーシアム代表などを務める。
Semiconductor International 日本版(以下、SIJ):MEMS市場が拡大している。
江刺正喜:この市場は毎年17%以上で成長している。もっと急拡大すると予測されていたが、これからもそのように予測され続けるだろう。しかし、一つ一つが開発された製品であり、MEMSには汎用性がないものが多いので、予測されているような急拡大は今後もないだろう。一方で、だからこそMEMSは簡単には真似できない、付加価値の高い製品となりえる。
SIJ:MEMSに対する期待は大きい。
江刺:ただ日本の場合は、自分の分野でがんばっている人が集まり、完成させている、悪く言えば縦割りの社会なので、MEMS製造に向いていない部分もある。色々な分野の技術を上手に組み合わせることができれば成功する。そして日本には製造技術の力もある。MEMSに対する要求も明確になってきているため、それらをまとめることができるかがカギとなるだろう。
SIJ:MEMSファンドリも立ち上がってきた。
江刺:MEMSファンドリにしても一つ一つが開発から始まるため、半導体ファンドリのようにうまくはいかないだろう。製造設備が必要なため、当然MEMSの設備を有しているところに委託することになる。しかし、そうはいってもMEMSの製造技術は標準化できないため、頼んでもできるわけではない。現状ではMEMSファンドリは、例えば「一応つくるが、だめだったらごめん」というようにビジネスとしては幼稚な段階だ。製品を完成できる方向に持っていくことが求められている。このため、この分野はアウトソースではうまくいかない。委託する側、される側が密接に関わることが必要だ。互いに理解できないとうまくいかない。
SIJ:MEMS独自の方法がある。
江刺:半導体製造のような形ではない、今までと違う方法が必要だ。私は、MEMSコアの手伝いをしているが、そこでは、会社から試作製造の委託を受けるのではなく、「コインランドリー」のような方法にすべきと考えている。設備を使ってもらい、密接な関係で開発を進める方がうまくいく。既存のMEMSファンドリでは、結局製品を完成できなかったケースもある。半導体メーカーが立ち上げたMEMSファンドリは悲惨だった。結局頼んでも引き受けてもらえない。技術がないからできない。既存の技術だけを揃えて製造を引き受けるビジネススタイルだ。半導体とMEMSでは、あまりにも違う領域だ。
SIJ:水平分業ができる産業ではない?
江刺:従来の半導体プロセスに近いMEMSもある。MEMSとは言っても多種多様なため、一概には言えない。例えば加速度センサーは、日本のメーカーが造るものがない時に一斉に製造を始め、価格が下がってしまった。今までの日本企業のビジネスはいつもそういう傾向がある。しかし、これからは付加価値の高いところで勝負しなければいけない。各製品ごとの開発をもう少し進めないといけない。
 一方で数があまりでないMEMSも色々ある。インクジェット、DMD、ジャイロなどもあれば、製造装置には高い付加価値を持ったMEMSリレーが搭載されている。MEMSマイクも従来の置き換えとして登場してきている。
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SIJ:開発する上で重要なのは?
江刺:問題は情報だ。情報がないが故に付加価値のないものの製造を始めてしまうメーカーもある。情報がネックとなり、開発が進まないこともある。最初にできるだけ情報を集めればいい。私が毎年集中講義などを積極的に開催するのもそのためだ。みんな情報に飢えている。
SIJ:半導体の開発では、非競争領域と競争領域では未だ議論が残っている。
江刺:大学の立場としては、オープンであるべきと考えている。捨てられた技術がほかの企業に拾われたりするケースもある。技術を繋いでモノを造る。競争よりは協力が大事な時期だ。あまり幼稚な段階から競争をするべきではない。米国は競争が激しく、ストレスや無駄が多い。日本で別の方法があるならば、それもいいだろう。日本独自のグローバリゼーションへの関わり方があるはずだ。「オープンコラボレーション」という言葉を私は多用しているが、日本の業界は理解してくれている。特にMEMSの分野では、情報がネックになることが多いため、競争するより協力する方がメリットがある。
SIJ:情報の見極めが大事になる?
江刺:大学には企業が人を派遣してきて、困ったところの開発を進めている。私がそれを制御することはない。企業はニーズを持っている。困っている課題を克服するために開発が始まる。もともとニーズが明確にあることが大事だ。漠然とやるところは失敗してしまう。
SIJ:アプリケーションで注目するのは?
江刺:コンシューマ製品ではワイヤレスの分野。装置向けにはプローバなどに注目している。今後重要なのは回路との組み合わせだ。特に高周波デバイスでは0.13μmなどの先端プロセスが使用されている。これらとMEMSを合わせようとすると、低温プロセスが必要になるが、これは大変なことだ。今後は先端CMOSプロセスの上にMEMSを造ることが必要となる。まだ、日本メーカーは手がけていない領域だ。
SIJ:日本では進んでいない?
江刺:日本は研究開発に向いてないのではないかと思うことがある。人が流動しない。今までの製造技術の源は終身雇用と年功制があり、余裕があったのではないか。人が動かないとベンチャー企業が誕生しない。国プロでも出向が多い。人の流動性が低いのは、日本のシステムに理由がある。以前は企業が将来のために投資していたから良かったが、ここにきてそれが弱くなってしまっている。欧米のベンチャーが売りたがっている技術を日本が製造すればいいのかもしれない。日本の研究開発の能力を少しずつ、高めていくしかない。
SIJ:今後は先端CMOSとMEMSの融合が始まる。
江刺:MEMSはシステムLSIの性能を上げる技術だと以前から指摘している。日本のメーカーは今どこもそこまで先のことを考えていない。食いつなぐ、延命することしかできていない。
SIJ:技術的には低温プロセスが必要になる?
江刺:MEMSはポリシリコンによるメカニカルな構造から始まっている。ポリシリコンは応力制御に1100℃で3時間の熱処理が必要だった。今はSiGeにより400℃で製造できるようになり、CMOSの上に搭載できるようになった。Alは低温で製造できるため、DMDが完成した。しかし、Alはバネとしての性能で劣る。一方で半導体技術が異常に進歩したため、0.13μmは200/300mmプロセスが必須となり、試作でMEMSを搭載するのが高価となってしまう。限られたところにしかできないのが現状だ。
SIJ:MEMS製造設備は標準化が不可能?
江刺:可能ならばいいが、MEMSは多種多様であるのが本質だから標準化が難しいだろう。
SIJ:今注目する技術は?
江刺:インクジェットや印刷による今までと違った電子回路技術など、半導体技術が別なものを取り込んで様々な方向へ発展していくのを見るのが興味深い。 
(聞き手:高橋 潤)
江刺研究所 www.mems.mech.tohoku.ac.jp
MEMS パークコンソーシアム www.memspc.jp
MEMS コア www.mems-core.com
メムザス memsas.com