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2006年12月号
SiRes
水晶発振子を置き換える
MEMS技術の登場
John McDonald
米SiTime社
www.sitime.com
 2006年4月に米SiTime社は、CMOS互換のMEMS(Micro Electro Mechanical System)プロセスによる新型発振子のサンプルを発表した。この発表は多くの機器に搭載されている水晶発振子を置き換える新しいMEMS市場の幕開けを意味する。同技術は、独Robert Bosch社、米Stanford大学のMarkus Lutz氏、そして米SiTime社創設者のAaron Partridge氏らの手により誕生した。
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 水晶発振子は、ほとんどの電子機器で、共振器や、発振子、クロック・チップが使用され、100億ユニット以上の市場を形成するデータ伝送のタイミング制御を行なっており、SiTimeのMEMS技術「SiRes」は市場に大きなインパクトを与えるだろう。
 MEMSによる発振子の歴史は40年前に遡る。しかし、エイジングに耐えられなかったため、商業的にはうまくいかなかった。これらの問題が、今、「EpiSeal」と「MEMS First」プロセスにより解決された。MEMS First技術は、MEMS構造を先に行い、EpiSeal技術は標準的なCMOSプロセスを使用しながら、MEMS構造を高真空超クリーンプロセスを用いて封止する技術である。これらの技術により、発振子は高いQ値、低いコストで0.150ppm/年で25年を超える低いエイジング速度を実現した。

新技術EpiSealとMEMS Firstプロセス

 製造プロセスは200mm SOIウェーハのDRIEエッチングから始まる。共振器の形状は0.18μm CMOSプロセスのリソグラフィ技術が使用される。通常の水晶発振子製造プロセスと比べて半導体製造プロセスは精度が高いため、10〜100倍の周波数精度を得ることができる。
 トレンチが充填され、Si酸化膜が表面に塗布される。駆動電極のコンタクト用にホールがエッチングにより形成される。Si酸化膜が共振器以外の領域から除去される(図1)。
 ウェーハはエピタキシャル成長装置に入れられ、共振器上に薄いエピポリシリコン層が形成され、また、単結晶Si層が接触面と非共振領域に形成される(図2)。
 ポリシリコン層にホールがエッチングされ、酸化膜が除去される。MEMS FirstウェーハはHFガスに露出されSi酸化膜共振領域から除去され、共振領域の角のみで自立した構造ができる(図3図4)。
 次にウェーハは、1000℃以上のエピタキシャル成長装置により熱いエピSi層が形成される(図5)。高温のためウェーハ上のコンタミネーションや有機物はキャビティから除去される。空乏はエピSi成長が進むとともに高真空下でシールされる。そしてウェーハは、コンタクト、電極が形成され完成する(図5図6)。
図1 ボッシュプロセスによるトレンチ形成 図2 ガラスの充填およびパターン形成 図3 ポリシリコン層の成長
図4  共振器のリリース 図5 エピによる封止 図6 メタルコンタクトの接続

SiRes共振器の性能と信頼性

 共振器の性能はQ値、100万分の1単位の初期周波数誤差、温度仕様範囲内で発生する全周波数誤差、経年変化による周波数誤差、耐衝撃性、耐振動性、キャビティ漏れなどで測る。

Qファクタ

 共振器のQ値、すなわちQファクタは、共振器で消散されるエネルギーの割合を示す測定値である。高性能の共振器の場合、エネルギーの消散は非常に遅く、Q値は低い。同社のSiRes共振器のQ値はウェーハ全面で、またロットを通じて80000± 3K未満である。MEMS共振器は0.18μmルール、200mmウェーハのCMOS量産工場において十分なプロセス制御の元で製造される。民生用レベルの水晶共振器のQ値は、同じ製造ラインでパーツごとの変動を考慮して70000〜230000未満である。同社の第2世代のSiRes U共振器のQ値はウェーハ全面でロットを通じて150000± 5K未満である。しっかり制御されたSiResの製造プロセスは、非常にカスタマイズされた水晶共振器の製造プロセスと異なり、標準のCMOSプロセスに付随した高品質の証しである。

初期オフセットおよび温度に起因する周波数誤差

 同社のMEMS発振器は、初期周波数オフセット誤差900ppm未満の非補償型生産を行なっており、これは事前除去型の水晶共振器よりずっとよい。さらに、初期オフセットに対して、温度による周波数の線形変化は−30ppm/℃であり、これはSiの材料特性による。通常のATカット水晶振動子は温度により± 1ppm/℃変化する。これは水晶の素材特性と水晶格子の切断角度によるものである。MEMSの温度補償は、直接加熱、電圧バイアス、材料補償、直接の周波数補償等いろいろな方法で実現できる。それぞれの方法には長所もあるが、それらが過度の消費電力やノイズ増加、経年劣化、コスト上昇につながるという問題もある。同社は、初期オフセットと温度を補償することに決定し、フラクショナルN型PLLにより共振周波数を補償し、MEMS共振器を、共振器を構成する材料としてSiとSiO2だけを使用して初期状態に保つ。温度補償は、第1世代の製品では10回/秒で実現した。
表1 加速エイジングテストの結果
1
2
3
5
7
10
15
20
25
Low
-0.08
-0.100
-0.100
-0.110
-0.120
-0.130
-0.130
-0.140
-0.140
High
0.100
0.120
0.130
0.140
0.150
0.150
0.160
0.170
0.170

経年劣化による周波数誤差

 SiRes共振器の経年劣化率は同社の現在の検出能力であるチップ単位で年間50個/10億個以下である。これらのデバイスがプラスチック・パッケージされると、経年劣化は通常、パーツ単位で年間100個/10億個となる。温度85℃での経年変化で言うと、水晶デバイス製品と同様の手法で測定した場合、150個/10億個に25年以内に周波数変化が起こるだけである(表1)。
図7 自動車用タイヤの振動プロファイルの例
図8 SiRes発振子の自動車用タイヤの振動プロファイルの出力の例
 民生用の水晶デバイス製品では、しばしば、1年で± 3ppm、10年で± 15ppmの経年劣化が起こる。水晶デバイスでの経年劣化の原因は、デバイスを完成するのに必要な材料が多岐に渡る点、水晶中の欠陥の数やタイプ、水晶キャビティの純度などさまざまである。水晶デバイスメーカーがより小さなサイズの製品を製造しようとすれば、MEMS研究者が超小型MEMSデバイスで直面しているのと同じ問題に遭遇するだろう。これらの問題として、デバイスを超クリーンに保つ方法、水晶デバイスをQ値や経年劣化に影響しないようにしながら低価格のパッケージに封止する方法などである。
 SiRes共振器は極度の高温状態でも耐えることができる。しかし、これらの共振器は0.18μmルールの標準CMOS駆動のICと組になっており、その温度仕様限界は通常のCMOS ICの温度仕様と同じである。言い換えると、同社の発振器の温度仕様はMEMS部品ではなくCMOS駆動回路によって制限される。
 液体冷却スプレーと強制高熱エアガンを使って1〜2秒の間に± 60℃の熱ショックを与えると、急速加熱冷却中に± 30ppm以下の周波数誤差が生じるだろう。液体や強制空気を使用した発振器の過剰な過熱冷却は、MEMS共振器の耐熱性と温度補償回路の応答速度の良さを証明する良い方法である。
 SiResは、そのサイズが非常に小さいことにより優れた耐衝撃性と耐振動性を持つ。SiRes共振器に30000Gの力をかけた場合でも、共振器の性能には何の問題もなく、試験された機器に障害は出なかった。コンピュータシミュレーション結果としてSiRes共振器を破壊するのに必要な衝撃の予測値が10万G以上であることが分かっている。

キャビティ漏れ

 Q値の高い共振器については完全により近い真空キャビティに封止しなければならない。製造後の残留ガス圧と、封止後150℃の環境に1000時間置いた場合のガス圧増加に関するデータが測定された。
 第1のテストで、SiRes共振器のキャビティ残留ガス圧が0.1mBarであることが確かめられた。このテストは、キャビティ上部のカバーに穴をエッチング処理により開け、真空チャンバーのなかに共振器を設置し、穴あき共振器のQ値が穴なし共振器のQ値と一致するまでエアを排出することにより行なった。Q値は残留ガス圧0.1mBarで一致した。この残留ガス圧は低すぎて、キャビティに残留している分子組成を決定できなかった。このテストで、Q値が1万まで低下する前に40mBarまでのキャビティガス圧にSiRes共振器が耐えられることも分かった。
 HやHeのような小さなガス分子や原子は、固体Siや共振器を覆う多結晶SiのEpiSealを通り抜けているようだ。HやHeが高圧で共振器に当たれば、共振器は温度とガス圧で決定される期間を経て機能を停止する可能性がある。しかし、デバイスが通常の大気状態に戻れば、キャビティ内でHやHeが拡散し、共振器が再び機能し始め、ガス圧が平衡状態に達するまで性能が向上すると考えられる。
図9 振動オフの時のSiRes発振子の出力の例

Si発振子の誕生

 Siによる共振器や発振子が、小型化および高い信頼性を得て市場で実現可能な技術として、さらに低コストで登場した。EpiSealおよびMEMS First技術は初期段階の技術であり、位相ノイズや温度ドリフト、Qファクタおよび周波数帯などで継続的な性能の向上が必要だ。
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John McDonaldは、米SiTime社マーケティング担当バイスプレジデント。米Cypress Semiconductor社子会社のCypress MicroSystems社(CMS)出身。CMSでは、2001年から2005年の間、マーケティング副社長であった。CMS以前はCypressにて汎用プログラマブル・クロック製品部門に在籍。また米Analog Devices社の高精度オペアンプグループに在籍し、米ワシントン州にて6年間、上級アナログ設計エンジニアとして従事。米ワシントン大学の電子工学の学士号を取得。