Movers&Shakers

石綿 宏 氏 
エーエスエムエル・ジャパン 代表取締役社長

[2007年05月号]

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 蘭ASML社は、露光装置市場で成長を続け、300mmウェーハ対応プラットフォーム「TWINSCAN」により市場で躍進した。2004年には金額ベースで露光装置市場シェアトップを奪取。TWINSCANは、液浸技術の導入に際しても優位性を発揮した。2006年、米Gartner社の調べでは蘭ASML社は世界の製造装置市場でシェアを急伸させ、シェアは世界第3位、第2位の東京エレクトロンに肉薄する売上を達成した。装置では、いち早くダブルパターニング技術で32 nmノードのプロセス開発にも使用できる装置を提供している。一方で、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)技術開発では、2台のEUVリソグラフィ露光装置のα機(ADT、Alpha-Demo Tool)を出荷した。米ニューヨーク州立大学(SUNY)のCollege of Nanoscale Science and Engineering(CNSE)に設立されたAlbany NanoTechとベルギーIMECに、フルフィールドEUV 装置が納入されている。また、試作用のEUV露光装置の出荷は、早ければ2009年となる見込み。しかし、技術力で市場を牽引しながらも、日本市場でのプレゼンスはまだ低い状況だ。2007年3月にエーエスエムエル・ジャパン代表取締役社長に就任した石綿宏氏は、市場参入には新技術の導入時期が大きな機会になると語っている。石綿氏に同社の日本市場での戦略を聞いた。

* * * *

Semiconductor International日本版(以下SIJ):ASMLの日本市場での現状は?

石綿宏:これからだ。日本市場を世界でどう位置づけるか、さらにはデバイス製造における競争力とは何かを考えなければならない。

SIJ:世界では高い市場シェアを獲得している。

石綿:世界市場では、当社装置が実際にどう使われ、さらに同社装置の性能がどれだけユーザーの利益増加に寄与しているかが分かっている。

SIJ:この時の露光装置の性能とは?

石綿:新技術、微細化への対応は当然だが、露光装置のような先端の装置は、どう使いこなすかも重要だ。デバイス製造時の競争力とは何か、装置メーカー側からも考えている。微細化はその一つである。しかし、差別化だけでは無理がある。微細化による装置の性能競争は、むしろ成熟してきた。

SIJ:では、何が競争力を生むのか?

石綿:微細化をいかに進めるかは当然のことで、加えて装置をどう使うかが極めて重要だと考えている。世界では、当社装置を採用している半導体メーカーがどのように利益をだしているか、また当社装置がそれにどう貢献しているかは見えている。露光装置で今重要なのは、どう使いこなすかだ。

SIJ:使いこなすことで製造コストが下がる?

石綿:海外半導体メーカーでは、装置一台の実際の処理能力の評価に時間をかける。装置性能としては、単体のスループットも重要だが、リソグラフィ工程では塗布現像装置からエッチングまで一連の工程で評価する必要もある。この時に、当社のエンジニアチームがリソグラフィプロセス全体の生産性向上に向けた評価に参加することで、新しく気づくこともある。

SIJ:半導体メーカーは露光装置を十分活用していない?

石綿:露光装置の価格は高い。価値のあるものを導入頂いたあとには、それをフル活用して欲しい。当社としては、新しい独自のアプリケーションサポートを提供していく。

SIJ:ASMLへの負担が高まる。

石綿:当社内でも時間がかかることだ。さらに実際に現場でやってみないと分からないこともある。しかし、製造現場で処理枚数を増やすことができれば、半導体メーカーにしてみれば追加のコストダウンを実現できることになる。某社では、実際のリソグラフィ工程の処理枚数を当社とともに見直すことで相当なメリットを得ているところもある。技術だけではなく、CoOや「Value of Ownership」を高めることができる。高価な装置を買ってよかったと思って頂けるサポート体制を整えることで、長期的なユーザーとの信頼関係が構築できる。

SIJ:サポート拠点の新設、サポート体制の強化、これらでは貴社の負担はますます高まるばかりだ。

石綿:これが当社のポリシーだ。装置メーカーによっては、1台納入されただけで、ユーザーの近くにサポート拠点を構えてフルサポートを行うことができない。その時点では赤字になってしまうからだ。しかし、この先行投資をできるかどうかが重要だ。納入台数は問題ではない。ユーザーの近くにサイトを設置し、単なるメンテナンスやトラブルシューティングに対応するエンジニアだけでなく、装置光学系やステージの専門家も派遣し、何かあったらすぐ対応する。さらに装置およびプロセス自体の生産性向上に貢献できるアプリケーションのエンジニアも送り、半導体メーカーをサポートする。

 リソグラフィ工程では、どのくらいの頻度でメンテナンスが必要か、塗布現像装置とのマッチングなど、要素が沢山ある。スループットの指標はあるが、それが量産で可能な処理枚数とは異なる。

SIJ:これは他社ではできない?

石綿:当社のようなオランダの装置メーカーには、幸か不幸かホームマーケットが存在しない。ホームマーケットがあるメーカーは内外でサポート体制が違ってしまうだろう。すべてのユーザーはオランダにある本拠地の外にしかない。これが当社の常識となっている。ここが日本の露光装置メーカーと大きく違うポイントだ。

SIJ:半導体メーカーのリソグラフィプロセスに大きく入り込む必要がでてくる。

石綿:ユーザーのニーズに合わせたレシピの設定、使い方に合わせたプロセスの設定、これで実力を出せるかどうかが変わってくるのを体感している。サポートしない限り、この実力はだせない。

SIJ:例えば先端プロセスの開発でも同様のことが考えられる。

石綿:液浸技術に関しても同様だ。開発と量産で必要とされる性能は異なる。量産レベルで当社装置の実力を発揮することが何よりも重要だ。2007年は、液浸リソグラフィの量産が始まる年だ。

SIJ:液浸技術、ダブルパターニング技術でも積極的に対応機種を発表している。

石綿:市場参入の大きなきっかけの一つに、技術の変化がある。既存技術の延長線上の技術を使用している限り、半導体メーカーが装置を変えることはない。新技術に変わるときが市場へのエントリーの機会だ。現在、日本市場での地位を確立できるかは、量産レベルでいかに半導体メーカーに貢献できるかだと考えている。

 一方で、新しい技術導入のリスクは高い。リスクの高い方を選択してもらうには、互いの信頼関係を構築しなければならない。信頼関係構築には、トラブル対応が重要だ。技術的にチャレンジしながら進む限り、必ずトラブルは発生する。この時、いかに努力し結果を出せるか、これにより本当の信頼関係が構築できるかが試される。

SIJ:先端リソグラフィ技術では、EUVの開発の遅れにより各社が迷走しているようにも見える。

石綿:先端リソグラフィ技術は、ダブルパターニング、EUVと続くだろう。最終的にコストを含めてユーザーが選択する時期が来る。ダブルパターニングでは、オーバーレイ、スループットが課題となるだろう。

SIJ:今、注目している技術は?

石綿:ホームエレクトロニクスの分野に興味がある。TVもしくはPCが家庭の中心となり、ホームセキュリティも含めて家庭内でエレクトロニクスのネットワークが構築されていくのであろう。この分野は、特に日本の電子機器メーカーが躍進できる領域でもある。

(聞き手:高橋 潤)

いしわた ひろし氏

1978年に住友商事株式会社に入社、同社では、半導体製造装置を中心としたハイテクベンチャー製品の輸入、国内販売に従事した。同時期に関連会社を設立、営業、マネージメントの責任者を務めると共に関連会社役員を兼務。1995年より米国駐在、住友商事米国法人Sumitronics社の副社長に就任。2000年に米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルWalden International移籍し、ゼネラルパートナーとして米国、日本、アジアで半導体関連スタートアップ企業への投資を行う。2005年6月にエーエスエムエル・ジャパンに入社、営業本部長を経て現職。1955年東京生まれ。早稲田大学理工学部電子通信学科を卒業。2005年には経営工学に関する研究で博士号を取得。



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