Editorial

物理から回路まで
半導体総合エンジニアの育成を急げ

[2007年06月号]

By 日本版 編集顧問 津田建二
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 弊誌5月号のFeature「新材料導入に待った! Siのリエンジニアリングでゲートリークを減らし次世代に対応する」を読んで半導体物理の重要性を改めて感じた。MOSトランジスタの表面チャンネル領域に、超格子を形成し結晶内を走る電子に異方性を持たせようというものだ。

 半導体物理の教科書にあるように、周期性のある格子を電子が走行する運動を量子力学的に解くと、波動ベクトルk(運動量に相当する)に対して価電子帯のエネルギーや、伝導帯のエネルギーは曲線を描く。k空間におけるエネルギーバンドの曲率半径が小さい、すなわちカーブがきつい場合には電子の有効質量は小さく、曲率が大きいと有効質量は重い。この性質を人工的に横方向と縦方向で違えようというものだ。LSI用のMOSトランジスタでは電子は横方向に走るため、横方向に有効質量を小さく、縦方向に大きくなるように制御する。このためドレイン電流は流れやすく、ゲートリーク電流は流れにくくなる。LSIに応用すれば駆動電流を大きくとれる一方で、ゲートリーク電流を小さく抑えられる。

 この考えに感動したのは、シリコンというごくありふれた材料を使って、量子力学的な周期性のある格子を作りこみ、シリコンの特性を変えてしまおうというアイデアだ。もちろん、疑問は多い。その超格子構造は原子層エピタキシャル成長技術を使って、半導体"非半導体"半導体という構造を繰り返し重ねて作る。どのようにして異方性を制御するのか、異方性を制御するパラメータは何か、非半導体薄膜とは何か、半導体材料はSiだけか、各層の厚さはいくつか、など不明な点は多い。

 幸いにも、その記事の著者であるRobert Mears氏が6月に来日する。リード・ビジネス・インフォメーションが6月19-20日に東京六本木の泉ガーデンで開催する「マイクロプロセッサフォーラム・ジャパン」において、Mears氏がこの新型トランジスタについて講演する。ここで直接、質問できる。楽しみだ。

 同氏は、Er(エルビウム)を光ファイバにドープして光増幅器を作った研究者でもある。つまり、物理学をよく知った上で、半導体デバイス分野に乗り込んできた。

 日本は、これまでの研究体制を考え直す必要があろう。つまり、これまでは大学や研究所ではシリコンにはもう研究するものがないから、化合物半導体を研究しようというような風潮があった。シリコンというありふれた材料でも、シリコンの特性よりも優れたトランジスタを発明できるということをMears氏は示した。

 このアイデアは半導体物理とMOSトランジスタ、最先端LSI回路、半導体プロセスの4つの分野に精通していなければ生まれない。これからの若いエンジニアを育成する上で、これらの分野は重要なカギとなる。

 折りしも、シンガポール政府が産業界と協力して6億円を投資して、半導体エンジニアを育てる計画を発表したが、半導体産業の未来は明るいという前提での話だ(http://www.edn.com/article/CA6439235.html?industryid=47037)。シリコン半導体産業が、従来のCharterd Manu-facturing社に加え、独Qimonda社やIntel-Micron合弁のフラッシュメモリー企業、仏Soitec社など半導体関連の工場の設立や拡張がこの先目白押しだから、これに対応する半導体エンジニアを毎年300名以上育てようというもの。

 翻って、日本はどうか。これからの未来に向けて成長する半導体産業に従事する物理から回路までの総合エンジニアの確保、教育、育成に対して政府はどう対応するのだろうか。その青写真を早急に作るべきではないか。

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