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IBMがスピンオン塗布で
電子移動度10cm2/Vsの薄膜を試作
ピーター・シンガー
図 スピンオン塗布で薄膜を作る
錫、硫黄、セレンからなるスピンオン・フィルムは、低価格のディスプレイ、高性能のスマートカード、センサーや太陽電池、フレキシブル電子機器に道を開く。
出典:IBM社
 さまざまな有機材料を使いインクジェット・プリンタに使われているような技術で、安価なディスプレイなどを創り出そうとしている研究者がいる。多くの研究のなかで、この究極の目標は「電子新聞」だ。すなわち、フレキシブル基板上に作られる薄膜トランジスタからなるディスプレイである。このフレキシブル基板は、ポテトチップの包装箱 を作る工程のようなやり方で、ロール-ツー-ロール方式(リールで巻き取る方式)のプロセスで作ることができる。
 有機材料が抱える問題の一つは、それで作ったデバイスの特性が無機材料で作ったデバイスほど良くないことにある。無機材料が抱える問題は、簡単な方法で膜を形成することが難しいことである。例えば、金属ならスパッタリングや蒸着といった物理的手法による気相成長法(PVD)プロセスで膜を形成するのことが多い。しかし、複雑で高価な装置が必要だ。

スピンオン塗布で半導体膜を堆積
 この問題に対する1つの答えを、米IBM社のT.J.ワトソン研究所の研究者が示した。このアイデアは、無機金属をヒドラジン(N2H4)という強い溶液に溶かし、1つの基板上にスピン・コーティングによって半導体を堆積しようというもの。この堆積された半導体膜SnS2-xSex(錫、硫黄、セレンの化合物)は、n型の極性を示し、電流密度は105A/cm2以上と大きい。移動度も10cm2/Vs以上が得られている。有機材料を用いたプラスチックTFT(thin film transistor)など、これまでの似たような技術と比べ、10倍以上の性能を持つ。IBMの研究者によれば、このアプローチは、スピン・コーティングや印刷法、スタンピング、ナノインプリンティング、インクジェット・プリンティング、ディッピング、といった、早くて安くスループットの高い「溶液プロセス」に適用できるはずだという。各種のディスプレイに加え、このプロセスは、高機能スマートカード、RFID(radio frequency identification:無線タグ)、太陽電池、相変化型メモリーの用途にも利用できるだろう。
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 IBM社の研究者が用いた無機材料は、カルコゲンと呼ばれ、化学周期律表における縦の列の元素で酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルリウム(Te)などから成る。この半導体材料を溶かすために、IBM社はヒドラジンを、同数のカルコゲン原子と半導体の金属カルコゲン化合物分子(たとえば、SやSeSなど)と組み合わせた。
 「結晶性の無機材料は非常に高いトランジスタ移動度を持つ可能性がある。問題は、不可能なことではないが、無機材料の多くが溶液に溶かすことが難しいことだ。これらは非常に強い共有結合を持っているため、どのようなものにも溶けようとはしない。われわれの研究では、共有結合している無機材料の構造を引き伸ばし、溶けやすい小さな粒に砕いた」と、IBM研究所のチームリーダーであるデビッド・ミッチ氏は説明している。
 カルコゲン化合物は半導体関係者にはなじみが薄いかもしれないが、その化学構造は比較的単純だとミッチ氏は言う。「皆がやろうとしていることは、例えば硫化錫のような半導体を使い少しだけ硫黄を混ぜ、ヒドラジンを加えることだ。この後、かき混ぜたり、スピンオン塗布をしている。ただし、それほど単純なことではない」(同氏)。
 スピン・コーティングした後、フィルムを過熱してヒドラジンと余分な硫黄を分解・蒸発させると、非常に薄いカルコゲン金属化合物(SnS2-xSex)が残る。厚さは5 nm程度で、均一だ。「幸運にも、堆積できた膜の品質は極めて高かった。加えて、かなりの範囲に渡って厚さを制御できた。特に、わずか数個分のセルの厚さという非常に薄い膜を均一に得られたことは、この研究の中で、もう1つの興味深い側面だった」とミッチ氏は語る。
環境にやさしい溶剤を求めて
 ミッチ氏の次のステップは、ロケット燃料にも用いられるエネルギーの高い分子であるヒドラジンの使用を減らすか、より環境に優しく効率の高い溶剤に置き換えることだ。「ヒドラジンはその毒性と反応性からみて、現実に使うのに好ましい溶剤ではない。代替物があれば替えるのにこしたことはない。約80%のヒドラジンを水に置き換えるところまで到達できた。それは純粋なヒドラジンを扱うことに比べたらはるかに環境に優しい混合溶液だ。最終的には、ヒドラジンを他の溶剤に完全に置き換えたい。それは今、研究している課題の一つだ」と言う。

エマージング・テクノロジーに関するさまざまな情報は
www.semiconductor.net/emerging を参照。

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