開発を始める前に複雑な電子機器や新規材料のコンピュータ・シミュレーションを行えば、コストやプロセス時間の削減につながる。「Siと違って多くの新規材料は極めて高価で入手も困難」と米イリノイ工科大学のコンピュータ・エレクトロニクス・グループ部門ディレクタで電気工学・物理学の準教授Marco Saraniti氏は述べる。結晶が成長する前の材料の品質と純度を見極めることや設計の適正と実効性を評価することが開発工程で必要になってきている。
コンピュータモデリングは今に始まったものではなく、シミュレーションの数を増やしても十分とは言えない。現在は数十nmという微細な領域にあるデバイスジオメトリが引き続き小さくなり、デバイス挙動のモデリングはますます複雑化している。量子力学的な干渉や単一電子効果のような現象を考慮しなければならない。問題は、何日もかかるのではなく何時間という合理的なコンピュータ処理時間で正確な結果を得られるかどうかになっている。米イリノイ工科大学の研究者は米アリゾナ州立大学と共同研究を行い、これらの厳しい要求に応えるシミュレーションアルゴリズム、cellular Monte Carlo(CMC)を製作した。
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シミュレーションの速度と精度を上げる
米イリノイ工科大学 コンピュータ・エレクトロニクス・グループ
[2007年10月号]シミュレーションの方法
よく使われるシミュレーション方法には流体ベースのものとパーティクルベースの2種類ある。従来からある方法のほとんどは流量ベースで処理も速いと考えられているが、新しいアプリケーションに必要な正確さに欠ける。流体ベースの方法はポイントやパーティクルというよりむしろ電荷の流れ(電流)を解析し、特定の速度における電荷密度の数学関数として表される。流体力学に似て、流体はドメイン上で定義される連続関数であり、デバイスである。この意味で、流体ベースのシミュレーションは顕微鏡でも見えないほど極小の部分までも表し、通常は微分方程式の解析を必要とする。
パーティクルベースのシミュレーションは、局所化された、移動中の個別電子をリアリスティックに表現する。最初のパーティクルベースのソフトウェアであるモンテカルロ法(MC、つまり確率論的)は米Los Alamos研究所のEnrico Fermi氏とJohn von Neumann氏によって開発され、1966年、黒沢氏によって最初に半導体デバイスに応用された。それは後に、米イリノイ大学によって現実的なバンド構造に適用され、米IBM社によって開発が進められた。MC法は半導体材料やデバイスで非平衡輸送をシミュレーションする数値方法である。確率を基にして、電子同士の相互作用に従って電子が動く方向は右か左かという判断しながら、電子同士の相互作用や結晶、存在する不純物を量子力学に基づいて表わされる。
MCアルゴリズムは動いている各パーティクルの乱数を作成する。カジノのルーレット盤に似たプロセスのため、Monte Carloという名が付けられた。電子の軌道は、外部バイアスとシステム内における電荷の空間分布によって生成された電界効果の下で起こる「自由飛行(フリーフライト)」のシーケンスとして計算される。各フリーフライトが終わると、電子の最終エネルギーと運動量を変化させることにつながり、散乱タイプが、乱数の作成を通して特定される(図1)。
図1 典型的な半導体の散乱機構
CMC
図2 六方晶系GaNの第一伝導帯のエネルギー表面がcellular Monte Carloアルゴリズムを用いてシミュレーションされる
Saraniti氏の研究グループとアリゾナ州立大学の研究者は、低価格のコンピュータメモリーを利用して、CMC法を推進。セル・オートマトン(Cellular Automaton)で行われた研究にヒントを得て、メモリーを速度で表すというコンピュータプログラミングで古くからある慣習をCMCに適用した。
シミュレーション前にすべての動的電子配置が表に蓄積され、時間のかかるコンピュータ処理を不要にする。最高で16GbのRAMを使い、散乱確率が事前に計算処理され、おのおの最初の状態から最終状態まで蓄積される。散乱機構はキャリアの運動量に対応した最終状態を任意に選ぶことで簡単にモデル化される。それはCMCを使って順次行われる。たとえば、もし電子が四つの可能な状態(a、b、c、d)に散乱しうるとすると、まずa方向に散乱する可能性が計算される。次にb方向の可能性が計算される。そのようにすべての可能性を計算して蓄積される。一方、従来のMCでは四つすべての合計を小さい表に蓄積し、その後、各散乱後の最終状態を決定するため、計算プロセスのコストがかかる。
オンザフライ圧縮技術のような他の時間短縮スキームも開発された。この方法では、ZIPファイル同様、圧縮状態でも16Gbの表が蓄積されたままアクセスが可能。このフルバンド技術は、従来のMC法に比べシミュレーション時間を1/50にまで短縮し、デバイス力学の状態を高精度で表す。
CMCデバイスシミュレーション
図3 GaN HEMTの伝導帯と価電子帯プロファイルの電子分布シミュレーションは、色を使って静電電位を示す。ほとんどの電子はドレイン下(図の強調部分)に閉じ込められる
HEMTでは、ゲート下のドープされていない狭い領域で電荷搬送を閉じ込めることで極めて低ノイズと高周波数のオペレーションを実現する。電荷搬送の閉じ込めは、電子を閉じ込めるポテンシャル井戸を生成するそれぞれのエネルギーギャップに違いをもたせた状態で、2つの異なる半導体をヘテロ接合させることで可能である。高電力、高周波数GaN HEMT内の電子の位置を図3に示す。
通信分野ではGaN HEMTが注目されているが、SiであれGeであれGaAsやInPの結晶化したものであれ、最も使用される半導体材料は、せん亜鉛鉱(Zincblende)構造やダイアモンド構造とも呼ばれる立方構造である。しかし、InNやGaNのような窒化物半導体は立方構造あるいは六方晶系結晶構造(ウルツ鉱構造:Wurtzite structure)になる可能性がある。世界でも一握りの研究グループしか六方晶系半導体で作られたデバイスをシミュレーションできるパーティクルベースのシミュレーションツールを持っていない。
どちらの結晶構造も窒化物の化学的性質は同じである。しかし、構造が異なると電気挙動が異ってくる。たとえば、ウルツ鉱構造のGaNはせん亜鉛鉱構造と比べ非常に大きなエネルギーギャップを持ち、優れた性能を示す傾向にある。これは2つの構造のそれぞれで作られたMESFETをCMCシミュレーションすると立証される。電気特性は劇的な違いを示し、ウルツ鉱結晶の方が優れ、興味深い結果をもたらした。ゲインやカットオフ周波数、最大動作周波数が高かったのである。
将来の方向性
CMCのようなアルゴリズムが有効であるにもかかわらず、その能力のすべてはまだ認識されていない。たとえば、最先端VLSI技術の開発でボトルネックの一つは高集積デバイス内の熱の問題である。MC法は、電子と相互作用するフォノンの集団を直接モデル化し、熱発生のミクロ機構を理解するのに不可欠になるかもしれない。そうなれば、電子と結晶格子間の熱交換の調整が可能になる。シミュレーション時間が短縮されれば、こうした研究が加速されるであろう。
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